2014年1月22日水曜日

オバマ大統領にファスト・トラック権限を与える法案がついに上程、果たして成立するか?

1月9日、超党派と銘打ったTPA法案が米国議会に上程されました。今回上程された法案もTPAと命名されていますが、これまでのTrade Promotion Authority貿易促進権限法案ではなく、Trade Priorities Act通商優先事項法案という名称です。内容はともかく、連邦議会として、憲法上議会の専決事項とされている通商について、何を目的として交渉に臨み、どのような内容の協定を結ぶのか、これまでのTPAで一貫して政権により無視されてきたその権能を、議会が求めるという立場が込められています。

しかし、11月に200名近い議員がTPA反対の書簡を大統領に送ったように、今回も即日5名の民主党上院財政委員会委員がUSTRに書簡を送り、これまでのファ-スト・トラックの枠組みには反対、議会との協議の枠組みがまず必要と述べています。また3名の民主党下院議員が同様に反対の声を挙げています。

以下は、米国のパブリック・シチズンのコメントです。
STOP TPP!!市民アクションでは、引き続き、パブリック・シチズンによるRPA批判第2弾、米国議会スタッフによるTPA法案の概要紹介などを翻訳し配信する予定です。(以下の翻訳文は、九州大・大学院の磯田 宏さんの翻訳文に基づき「STOP TPP!!市民アクション」の翻訳チ-ムがまとめたものです)

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2014年1月9日発表
オバマ大統領にファスト・トラック権限を与える法案がついに上程、果たして成立するか?
初日からの下院での強い抵抗と、中間選挙年の厳しい日程の中で

ワシントンDC発――上院民主党ボーカス議員(モンタナ州)と下院共和党キャンプ議員(ミシガン州)が本日上程した法案は、問題のファスト・トラック通商権限を復活させようとするものだ。しかし、第113回連邦議会で成立する見込みは極めて低い、とパブリック・シチズンは同日コメントした。

これまで、民主・共和両党の大統領とも、ニクソン大統領時代に創設されたファスト・トラックの枠組みを利用して、憲法上議会に与えられている通商権限の委任を得るべく奮闘してきた。しかし、ファスト・トラックが発効していたのは、NAFTA及びWTOの成立以降18年間の道筋のうち、たった5年間(2002~2007年)にすぎない。

今回のキャンプ・ボーカス法案の中核をなす旧来のファスト・トラックによる審議手続きに対しては、下院の民主党議員と共和党議員の相当数が既に反対を表明しており、オバマ政権にとって、議員たちの関心が中間選挙に移る前の2014年前半に法案を通過させられる見込みは限られたものである。そして2014年11月には、全下院議員と上院3分の1の改選が控えている。

第113回連邦議会の第1会期は、下院歳入委員会と上院財政委員会の交渉に費やされ、意見の一致に基づく法案を成立させることが出来なかった。民主党主席議員で歳入委員会の委員長であるサンディ・レビン議員(ミシガン州)は、本日上程された法案に対し反対を表明した。彼は議会の役割を強化するよう、旧来の手続きの変更を要求している。

パブリック・シチズン、国際貿易監視部門のローリ・ワラック代表は「オバマ政権がTPP交渉諸国に譲歩を迫るため、ファスト・トラック法案導入を執拗に追求することは疑いの余地がない。しかし、非常に多くの民主党議員と共和党議員の反対があり、また2014年の中間選挙に関心が移るまでの(この議案に割ける)時間が限られていることを考えると、ファスト・トラックが成立するかどうかは疑わしい」と指摘した。

連邦議会に提出された法案が行き詰まることは珍しくない。参考として前回の連邦議会の例を挙げると、10,445本の法案が上程され、そのうち法律として成立したのはわずか272本(3%未満)だった。現議会(第113議会。2013年1月から2015年1月)ではこれまでに、上程された法案の1%(5,713本中64本)しか成立していない。

ファスト・トラックは民主・共和両党議員の間で問題になっている。この法案により大統領は議会の採決を待たずに通商協定に署名することが可能になり、その際に、協定を施行し、既存の連邦法を広範囲に改変するための法案を行政機関が起草すること、さらに上下両院に90日以内に採決させることが保証されているためである。これに対して、委員会は審議や修正ができず、本会議での採決の際も修正は禁じられ、上下両院で(それぞれ)最大20時間の審議しか許されていない。

ワラック氏は指摘する。「ファスト・トラックを支持しようという議会の機運は著しく減退している。理由は、数々の『通商』協定により国内政策に対する議会の決定権がますます侵害されるようになってきたことにある。そのうえ、民主・共和両党の大統領ともファスト・トラックに含まれる交渉目的を一貫して無視してきたが、ファスト・トラックの仕組み上、そうしたことに議会が対応する権限すら手放してしまうことになっているからだ」

オバマ大統領がファスト・トラック権限を得ようとしているTPPには、特許、著作権、金融規制、エネルギー政策、政府調達、食品安全性、その他、連邦議会や州議会が管轄できる事項に関する政策を制約する可能性のある章も含まれている。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は、2002~2007年のファスト・トラックの権限を獲得するために、2年という歳月と莫大な政治的技量を費やした。しかしその権限は、共和党が多数を占める下院においてすら1票の僅差で成立し、2007年には期限切れとなってしまった。

ビル・クリントン大統領は、2期目の任期中にファスト・トラック権限を得るために2年間を費やした。しかし、1998年、171名の民主党議員に、当時の議長ニュート・ギングリッチに強く反対していた71名の共和党議員が加わり下院で否決された。クリントン大統領は8年間の在任中6年間ファスト・トラック権限を有しなかったが、それでも中国のWTO加盟につながった最恵国待遇を与える協定を含む130以上の通商協定を締結した。

「今日では、どんな議案でも議会が党派を超えて合意に至ることは稀だ。したがって、大規模な超党派の議員連合が、憲法上議会が通商について有している排他的な権限の堅持を強く主張している現状は、注目に値する」とワラック氏は指摘した。

151人の民主党下院議員はオバマ大統領宛書簡(2013年11月)において、通商協定交渉とその承認のための新たな制度の創設を求め、「21世紀の協定において20世紀型ファスト・トラックは明らかに適切ではなく、取って替わられなければならない」と表明している。(翻訳協力:西本裕美/監修:廣内かおり)

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