2014年1月29日水曜日

米国NGO「パブリック・シチズン」による「TPA 法案」への批判的分析

ご本人の了解をいただき九州大学の磯田宏さんの仮訳を基に翻訳チ-ムの清水さんにまとめていただきました。2002年のTPA法は貿易促進権限“Trade Promotion Authority”。今回の法案は同じTPAでも通商優先事項法案“Trade Priorities Act”と名前を変えているところがミソと言えます。本当にその“ミソ”がその通りになっているのかは、このパブリック・シチズンの批判を読んでいただき判断いただきたいところです。

ただ、昨年11月にオバマ大統領に提出された200名近い民主・共和両党議員による書簡で強く主張されていた、憲法上議会の専決的な権能である通商協定の締結権限を取り戻す要求、通商協定を発効する過程で制定される国内法としての協定実施法により、国内法の制定・修正にも議会の権限が及ばないことに対する反発、その上で、議会としての通商交渉上の目標などの明示などがこのTPA法案に見て取ることが出来ます(先の翻訳:下院歳入委員会と上院財政委員会スタッフによるTPAの概観、を参照)。

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パブリック・シチズンによる「TPA 法案」への批判的分析
2014 年1 月11 日(仮訳・磯田宏)
キャンプ・ボーカス法案であの2002 年ファスト・トラックが復活する

2007 年に失効した2002年版ファスト・トラックの手続きを踏襲したキャンプ・ボーカス・ファスト・トラック法案

大統領は通商交渉相手国の選定と交渉開始の権限を一任されることになる。この権限には、2002 年ファスト・トラック法案と同様キャンプ・ボーカス法案でも、議会に対する形式的な諮問と交渉開始90日前(暦日)までの通知という条件しかない。議会手続きが簡略化される当該の協定の交渉開始を大統領が決定しても、議会が拒否権を発動する仕組みはなく、協定相手国の選定にも口をはさめない。(第5 条(a))

大統領は協定の内容を決める権限を一任されことになる。2002 年ファスト・トラックと同じく、キャンプ・ボーカス法案のなかで定められている議会の交渉目標に強制力はない。米国の交渉官たちがこの交渉目標一覧を手にしようがしまいが、大統領には議会が採決する前に通商協定に署名する権限がある。しかも、通商協定の実施に必要な法案を作成することができるのは行政府であり、行政府には、上下両院が90 日以内に採決にかけるということが保証されている。議会による修正は一切禁止され、審議時間は(上下院それぞれ)20時間を超えてはならない。(第3 条(b)(3))

これまでの大統領は、民主党、共和党を問わず、ファスト・トラックで定められた交渉目標を無視してきた。NAFTA 締結およびWTO 設立のときの1988年ファスト・トラックには労働基準に関する交渉目標が定められていたが、どちらの協定にもそのような規定は含まれることはなかった。2002 年ファスト・トラックでは、為替操作を規制する枠組みの創設が優先項目の1つとして挙げられていたが、同ファスト・トラックの下で締結されたどの通商協定にも、為替操作の規定は含まれなかった。

大統領は、形式的な諮問と90 日間(暦日)の事前通知のみを条件とし、簡略な審議ですむ通商協定に署名し、加盟する権限を与えられる。(第6 条(a)(1))どの時点で交渉を「終結」させるかは、行政府が単独で決定する。この法案で定められた議会との「協議」の仕組みのなかには、議会が定めた目標が本当に達成され、そのうえで妥結したのかを正式に審議する権限や枠組みはなく、大統領の協定署名の前に議会が自分たちの目標が達成されたことを確認する手段はない。

大統領は、広範な実施法案を作成し、議会に提案する権限を与えられる。(第6 条(a)(1)(C)) 2002 年ファスト・トラックと同様、その法案を議会の委員会で修正することはできない。2002 年ファスト・トラックには、大統領が「通商協定を実施するために必要ないし適切」な実施法案だと考えれば、アメリカの法律にいかなる改訂を加えることもできると書かれていた。これまでファスト・トラックでは、この「適切な」という用語が盛り込まれることについて論争があった。というのも、議会が当該協定実施のために「必要」と考えようが考えまいが、行政府に対し既存のアメリカ法に改定を加える巨大な自由裁量権を与えるからである。実際、「適切な」という用語が盛り込まれたことで、民主・共和両党の政権は、委員会での修正も本会議での修正もなくアメリカ法に的外れな修正を加え、立法化することが可能になった。今回の法案では、「適切な」という用語を削除するどころか、2002 年ファスト・トラックと同じ「必要あるいは適切な」という文言の前に「厳密に」という余計な修飾語が加えられただけである。(第3 条(b)(3(B)ii)2002 年ファスト・トラックと同様、通商協定の実施法案に盛り込まれた、行き過ぎた条項に対抗するためのいかなる議事進行上の手続き(point of order)もその他のメカニズムも存在しないのである

2002 年ファスト・トラックと同じく、今回の法案はそうした実施法案を、下院で60 日の会期日数以内に、上院ではその後追加の30 日の会期日数以内に採決することを義務づけることになる。(第3 条(b)(3))

2002 年ファスト・トラックと同様に、今回の法案は実施法案に対する議会でのあらゆる修正を禁じており、上下院での審議時間もそれぞれ20 時間しかない。上院を含め採決は単純多数決である。

今回の法案は、ファスト・トラックによる(審議)手順の適用の際の制約を特定の通商協定に課すという点でも2002 年ファスト・トラックの複製である。上院財政委員会が公表した法案概要説明によれば、同法案では「強力で包括的な」(議会による)非承認措置が含まれていることが提案されている。しかし実際には、2002 年ファスト・トラックの複製であり、ファスト・トラック非承認の決議を提案する根拠には制限が加えられている。また、そのような決議案の審議手続きも2002年のままで、決議が採決に回される見込みすら確実ではない。本会議で審議するためには、下院歳入委員会と上院財政委員会の承認が必要であり、そのうえで上下両院は60 日以内に当該決議を成立させなければならない。(第6 条(b)))

今回の法案には、2002 年ファスト・トラックにはなかったいくつかの交渉目標が含まれている。ところが、この法案のなかで再度確立されることになるファスト・トラックの流れをみると、こうした目標を完全に実施できないことは必至である。

また、「新しい」と喧伝されている今回の法案の交渉目標のなかには、2002 年ファスト・トラックでも言及されていたものがある。例えば2002 年ファスト・トラックには為替(操作への)対策が含まれており、「協定参加国間で、著しくかつ予期できない為替変動が通商に与える結果を検証し、国際貿易における競争優位を促進するために自国通貨を操作するような方法をとる外国政府がないかどうかを精査するため、協議の仕組みの確立を追求する」としていた。(19 USC 3802 (c)(12))今回の法案の、いわゆる「新たな」条文では次のように定めている。「為替取引に関するアメリカの主要な交渉目標は、アメリカと協定を結んでいる相手国が、有効な国際収支調整を妨げたり、あるいはアメリカやその他の加盟国から不公正な競争優位を獲得しようとして為替相場を操作することがないようにすることである。その方法には参加国間の協力の仕組み、強制力のある規則、報告、監視、透明性、あるいはその他適切な手段があげられる」(第2 条(b)(11))

「議会との調整強化」と自賛されているものの内実は、2002 年ファスト・トラックで「議会による監視グループ」とされていたものを、「議会による交渉助言グループ」と改名したに過ぎない。透明性の向上をうたった条項は、過去の方法を正式なものにしただけである。

2002 年ファスト・トラックでは、議会指導者が指名する議員からなる議会監視グループ(COG)を設立し、その議員はUSTR から交渉の進捗に関する特別な説明を受け、交渉に助言者という立場で出席することができた。今回はこのCOG を「下院の交渉助言グループ」「上院の交渉助言グループ」に改名し、両者が共同して活動するとしている。しかし、指名の方法も議会による助言グループの役割が限定されていることも、2002 年ファスト・トラックと同じである。(第4 条(c))

今回の法案はUSTR に対して、議会、国民、民間部門の助言者グループと協議する際の指針を作成するよう指示している。実際には、この条文はUSTR が利害諸関係者とどのような関係を結ぶか(あるいは結ばないか)を明記するように求めているに過ぎない。

今回の法案は、USTRに対し連邦議会議員は誰でも通商協定文書を閲覧できるように義務づけることで、過去のUSTR の方法を正式なものにしただけだ。たとえば、NAFTA 交渉のとき、議員は各交渉会合後に議院内の特別室でNAFTA 条文の最新版全文を見ることができた。2013 年夏にオバマ政権はTPP 条文草案閲覧を求める議員たちからの圧力に応える形で、議員が要望する特定の章について議員事務所に持って行くことを認めた。今回の法案は、通商協定条文の全草案に議員が常時アクセスできるような措置をUSTR に再開させたわけではなく、議員が閲覧を希望した場合にどのように閲覧させるかの裁量はUSTRに任せたままである。

さらに今回の法案は、機密扱いの通商協定の提案事項や条文草案について、秘密保持審査に通った(委員会所属の)委員の議会スタッフだけに閲覧を認め、審査に通っていても議員の個人スタッフには認めない、という2002 年ファスト・トラックで問題となった文言もそのまま繰り返されている。

キャンプ・ボーカス法案の第113 回議会での承認はかなり厳しい。

下院民主党議員と共和党議員の多数が既に今回の法案の核心になっている旧来のファスト・トラックの手続きに反対を表明している。議員が中間選挙に気を取られる前の2014 年前半のうちに法案を成立させる見込みは限られている。

昨年11 月、民主党議員151 名がオバマ大統領に宛ててファスト・トラックに反対する書簡を提出し、通商協定交渉とその承認について新たな仕組みの創設を要求した。

また27 名の共和党議員も、オバマ大統領に2 通の書簡を送りファスト・トラックへの反対を表明している。

下院歳入委員会のほとんどの民主党委員が11 月に出された追加の書簡に署名しており、旧いファスト・トラックの手続きはほとんど支持を得られないことを示している。

議会への上程が何回も延期されたにもかかわらず、今回のファスト・トラック法案は下院民主党の共同提案者を見つけることができなかった。下院歳入委員会野党(少数党)筆頭理事のレビン議員(民主党、ミシガン州選出)は、今回の法案の不支持を表明している。レビン議員は2002年ファスト・トラックの手続きを変更して、通商協定の内容を決定する上で議会の役割を強化するよう要求していたが、下院歳入委員長キャンプ議員(共和党、ミシガン州)、上院財政委員長ボーカス議員(民主党、モンタナ州)、および上院財政委員会野党筆頭理事ハッチ議員(共和党、ユタ州)に、すげなく拒絶されている。

今回のファスト・トラックは、TPP と米EUFTA(TAFTA)に(それぞれに新法制定を必要としない)祖父条項として適用される。(第7条) TPP とTAFTA のためのファスト・トラックで特に問題になっているのは、これらの協定に特許、著作権、金融規制、エネルギー政策、政府調達、食品安全性、その他諸々が含まれており、連邦議会や州議会がこれら慎重な扱いを要する非貿易事項に関する法令を維持し、成立させる政策が制約を受けるからである。ファスト・トラックは、1970 年代に関税や輸入割当という狭い範囲に焦点を絞った通商交渉が行なわれていた時代に設計されたものであり、今日の協定のように広範な非貿易的政策を扱うためのものではなかった。

ファスト・トラックは例外的な存在でしかない。過去19 年間のうちたった5 年間しか発効していなかった。

民主・共和両党の大統領は、ニクソン時代のファスト・トラック枠組みを通じて憲法上の通商権限を議会から大統領に委譲させようと苦闘してきた。NAFTAとWTO 設立協定が議会を通過して以降19 年間のうち、ファスト・トラックが効力を持っていたのはたった5 年間(2002から2007 年)だった。

ビル・クリントン大統領は第2 期目にファスト・トラックによる通商権限を獲得しようと2 年間注力した。しかし、171 名の民主党議員に当時の議長ギングリッチに反対する71 名の共和党議員が加わり、1998年に下院本会議で否決されている。クリントン大統領は8 年の在任中6 年間ファスト・トラックがなかったが、それでも130 以上の通商協定を発効させた。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は2002-2007 年ファスト・トラックを獲得するために2 年の歳月と相当な政治的資本を費やした末、共和党が多数を占める下院でわずか1 票差で可決され、そしてそれは2007年に失効した。
(翻訳:清水亮子/監修:廣内かおり)

2014年1月25日土曜日

2014 年超党派連邦議会通商優先課題法案の概観

以下は提案者が委員長を務める上下院の委員会スタッフがまとめたもので、法案に込められた議会の求める交渉目標、特更にその権能を強化する意図を解説しています。近日中に翻訳予定の米国NGO「パブリック・シチズン」の分析と比較するとよいかと思います。(以下の翻訳文は、九州大・大学院の磯田 宏さんの翻訳文に基づき「STOP TPP!!市民アクション」の翻訳チ-ムがまとめたものです)

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2014 年超党派連邦議会通商優先課題法案の概観

上院金融委員会と下院歳入委員会のスタッフが作成。
確固たる通商上の課題を明らかにする:現政権は連邦議会と協議しながら取り組み、野心的かつ確固たる通商交渉に関わる確固たる、そして野心的な課題を追求するものである。

合衆国は現在、11のアジア太平洋諸国、EU の28 加盟国、新サービス貿易協定(TISA)におけるその他22ヵ国、およびWTO の159 加盟国と諸々の協定の交渉を行っている。

アジア太平洋およびEUとの交渉を合わせると約10 億人の消費者を有し、世界のGDP の3 分の2 近くを占め、世界貿易の65 %を占める市場を開放することとなる。TISAも世界のGDPの50%、サービス部門貿易の70%以上を占めている。

2007 年に失効した貿易促進権限(TPA)を更新することは、これらの交渉を成功させるために、そして連邦議会が実施法案を審議するために必要である。

既存法の強化と改善:2014 年TPA 法の3つの要点

連邦議会が委任した交渉目標を通じて、議会の持つ専決権を政権に実行させることとする:

交渉の開始前、交渉中、終了後において、十分な協議をおこない、情報開示の方法を確立して、連邦議員と国民に対し開かれた透明性の高い交渉の流れを確保する:
そして、最終的に実施法案に対して修正なしで賛否投票を行なう手続により、連邦議会が専決権を保持し、通商協定の承認について最終的な判断を下すことができるようにする。

21 世紀にふさわしい交渉目標に改める:連邦議会はTPA を通じて政権が追求すべき明確で野心的な交渉目標を設定し、交渉相手諸国に連邦議会の要求を知らしめる。2014 年TPA 法により既存の交渉目標を更新し、最新のものにする。そのことにより、合衆国の通商協定が世界最高のものとなるようにし、合衆国の物品、サービス、投資に対して市場開放が確実に行われるようにする。

デジタル時代にふさわしい新たな物品とサービスの目標を構築する:拡大した新しい条項は、サービスが経済のあらゆる部門に利益をもたらし、貿易を円滑化する役割があることを認め、野心的なTISA(新サービス貿易協定)交渉を促進する。また、(新たな条項は)国境を跨ぐ情報流出の保護などによりデジタル取引きを円滑化し、インターネットによる国際間取引きの重要性を認識するために新しい目標を設定する。

農業に関する規則を強化する:最新の諸条項は、衛生植物防疫措置に対して厳しく強制力のある規則を求め、地理的表示の不適切な使用に対処する。

投資におけるバランスの取れた目標を保持する:2014年TPA法は、海外投資に対する障壁を除去し、合衆国の投資家を不公平な扱いから保護するという確固たる目標を保持する。

知的財産を保護する:新たな条項はサイバー窃盗に対処し、企業秘密を保護し、合法的なデジタル取引を円滑にする。そして交渉目標として、合衆国の法律のように高い知的財産保護の水準を供与し、医薬品の開発と入手がこれまで以上に容易になることを保証する通商協定を引き続き求める。

労働と環境分野を最新のものにする:新条項は合衆国の最近の通商協定を反映したもので、通商相手国に対し国際的に認められた中核的な労働基準を採用、維持し、貿易と投資に影響を与えるような形でそれを放棄したり逸脱したりしないことを求めており、また同様に合衆国が署名国となっている多国間環境協定を採用、維持し、それを放棄したり逸脱しないことを求めている。いずれの場合も、他の強制力ある協定上の諸義務の場合と同様の紛争処理および救済措置を求めている。

  通貨操作に対処する:新たな交渉目標は、通商相手国の為替レートの操作防止を初めて求めている。例えば参加国間協力の仕組み、強制力ある規則、報告、監視、透明性、あるいは適宜その他の手段をつうじて実現する。

国有企業が及ぼす影響に対処する:新たな交渉目標は、国有企業による貿易の歪曲や不公正競争を除去し、国有企業が商業的な考慮のみによって活動することを確実にするよう求める。

より良い規制慣行を追求する:改定された新条項は規制慣行の改善、(国内外における)規制の整合性と一貫性、規制と基準設定過程のより強力な透明性を目的にしている。また政府の規定による賠償制度が透明であり、手続き上公正で差別性がないことを保証する。

国内優先の貿易障壁に対処する:新たな交渉目標は、合衆国の物品とサービスの輸出に対する国内優先を強制する措置や関連する障壁に対処する。

国際的な“バリューチェーン”を促進する:新たな条項が、合衆国の国際的なバリューチェ-ン展開を後押しし、通商協定が、益々相互関係を強め分野をまたがる貿易・投資活動の実態を反映するようにする。

強力な実効性を追求する:通商協定のなかで大統領が強力な紛争処理の仕組み担保するようにする。

貿易救済措置を保持する:合衆国が自国の通商関連法規を厳格に適用する権能を保持する。

連邦議会及び国民との協議を強化する:拡大した新条項によって議会の権限を強め、議会が交渉において重要な役割を果たすようにする。

協定条文の閲覧を確保する:法的に、全ての連邦議員が確実に交渉中の条文を閲覧できるようにする。

議会との協議を強化する:米国通商代表部USTR に対し、関心ある連邦議員とは誰でも、いかなる時も、面会し協議することを義務づける。交渉開始以前、交渉中、および終了後の協議義務の対象範囲を拡大する。

全ての連邦議員の交渉過程への参加を認める:連邦議員は誰でも「議会アドバイザー」として指名されることを認められ、交渉会合に参加を認められる。

上下両院に「交渉助言グループ」を設置する:上下両院に「議会助言グループ」を設置し、通商交渉の進捗を監督し、定期的な会合を義務づける。連邦議員は誰でも自分の見解を提出することができる。

国民及び各助言委員会との間の透明性および協力を促進する:国民参加と各助言委員会との情報共有に関する指針を書面にし、透明性、および国民の関与と協力の措置を求める。

協定実施法案に対する連邦議会による支配権を維持する:拡大された新しい条項は、連邦議会が実施法案の制定に対する支配権を持ち、修正せずに審議するための規則を制定することを保証する。

TPAを相当程度延長する:TPAを4 年間延長し、選択肢としてさらに3 年間の延長をおこなうことで、次期政権にもTPA による権限を与える。

しっかりとした報告義務を課す:通商諸協定の影響に関して報告義務を拡大する。全報告の公表を義務づける。

合衆国の主権を保護する:新たな条項では、連邦議会によらずして、通商協定により合衆国の法律を変更することはできないと明記されている。

協定実施法案の範囲を明確にする:協定実施法案には通商協定の「実効化のためにどうしても必要、もしくは適切である条文のみ」が含まれることを明確にする。

連邦議会による監視を強化する:TPA の諸手続は、特定の期間内に妥結した協定のみに適用されることを保証し、協定発効手続を厳格化する。

進行中の交渉に対する監視を確実にする:TPA は進行中の交渉に適用され、その際(連邦議会による)監視や協議の義務も含まれることを保証する。

強力で包括的な(TPAの)非承認手続きを付与する:通商協定が本法の目標に合致しない進展をたどる場合、また新たな(法案の)文言により、全ての通知や協議要請が承認されなくなる場合、TPA は不許可になることもある。
(翻訳協力:田所剛/監修:廣内かおり)

2014年1月22日水曜日

オバマ大統領にファスト・トラック権限を与える法案がついに上程、果たして成立するか?

1月9日、超党派と銘打ったTPA法案が米国議会に上程されました。今回上程された法案もTPAと命名されていますが、これまでのTrade Promotion Authority貿易促進権限法案ではなく、Trade Priorities Act通商優先事項法案という名称です。内容はともかく、連邦議会として、憲法上議会の専決事項とされている通商について、何を目的として交渉に臨み、どのような内容の協定を結ぶのか、これまでのTPAで一貫して政権により無視されてきたその権能を、議会が求めるという立場が込められています。

しかし、11月に200名近い議員がTPA反対の書簡を大統領に送ったように、今回も即日5名の民主党上院財政委員会委員がUSTRに書簡を送り、これまでのファ-スト・トラックの枠組みには反対、議会との協議の枠組みがまず必要と述べています。また3名の民主党下院議員が同様に反対の声を挙げています。

以下は、米国のパブリック・シチズンのコメントです。
STOP TPP!!市民アクションでは、引き続き、パブリック・シチズンによるRPA批判第2弾、米国議会スタッフによるTPA法案の概要紹介などを翻訳し配信する予定です。(以下の翻訳文は、九州大・大学院の磯田 宏さんの翻訳文に基づき「STOP TPP!!市民アクション」の翻訳チ-ムがまとめたものです)

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2014年1月9日発表
オバマ大統領にファスト・トラック権限を与える法案がついに上程、果たして成立するか?
初日からの下院での強い抵抗と、中間選挙年の厳しい日程の中で

ワシントンDC発――上院民主党ボーカス議員(モンタナ州)と下院共和党キャンプ議員(ミシガン州)が本日上程した法案は、問題のファスト・トラック通商権限を復活させようとするものだ。しかし、第113回連邦議会で成立する見込みは極めて低い、とパブリック・シチズンは同日コメントした。

これまで、民主・共和両党の大統領とも、ニクソン大統領時代に創設されたファスト・トラックの枠組みを利用して、憲法上議会に与えられている通商権限の委任を得るべく奮闘してきた。しかし、ファスト・トラックが発効していたのは、NAFTA及びWTOの成立以降18年間の道筋のうち、たった5年間(2002~2007年)にすぎない。

今回のキャンプ・ボーカス法案の中核をなす旧来のファスト・トラックによる審議手続きに対しては、下院の民主党議員と共和党議員の相当数が既に反対を表明しており、オバマ政権にとって、議員たちの関心が中間選挙に移る前の2014年前半に法案を通過させられる見込みは限られたものである。そして2014年11月には、全下院議員と上院3分の1の改選が控えている。

第113回連邦議会の第1会期は、下院歳入委員会と上院財政委員会の交渉に費やされ、意見の一致に基づく法案を成立させることが出来なかった。民主党主席議員で歳入委員会の委員長であるサンディ・レビン議員(ミシガン州)は、本日上程された法案に対し反対を表明した。彼は議会の役割を強化するよう、旧来の手続きの変更を要求している。

パブリック・シチズン、国際貿易監視部門のローリ・ワラック代表は「オバマ政権がTPP交渉諸国に譲歩を迫るため、ファスト・トラック法案導入を執拗に追求することは疑いの余地がない。しかし、非常に多くの民主党議員と共和党議員の反対があり、また2014年の中間選挙に関心が移るまでの(この議案に割ける)時間が限られていることを考えると、ファスト・トラックが成立するかどうかは疑わしい」と指摘した。

連邦議会に提出された法案が行き詰まることは珍しくない。参考として前回の連邦議会の例を挙げると、10,445本の法案が上程され、そのうち法律として成立したのはわずか272本(3%未満)だった。現議会(第113議会。2013年1月から2015年1月)ではこれまでに、上程された法案の1%(5,713本中64本)しか成立していない。

ファスト・トラックは民主・共和両党議員の間で問題になっている。この法案により大統領は議会の採決を待たずに通商協定に署名することが可能になり、その際に、協定を施行し、既存の連邦法を広範囲に改変するための法案を行政機関が起草すること、さらに上下両院に90日以内に採決させることが保証されているためである。これに対して、委員会は審議や修正ができず、本会議での採決の際も修正は禁じられ、上下両院で(それぞれ)最大20時間の審議しか許されていない。

ワラック氏は指摘する。「ファスト・トラックを支持しようという議会の機運は著しく減退している。理由は、数々の『通商』協定により国内政策に対する議会の決定権がますます侵害されるようになってきたことにある。そのうえ、民主・共和両党の大統領ともファスト・トラックに含まれる交渉目的を一貫して無視してきたが、ファスト・トラックの仕組み上、そうしたことに議会が対応する権限すら手放してしまうことになっているからだ」

オバマ大統領がファスト・トラック権限を得ようとしているTPPには、特許、著作権、金融規制、エネルギー政策、政府調達、食品安全性、その他、連邦議会や州議会が管轄できる事項に関する政策を制約する可能性のある章も含まれている。

ジョージ・W・ブッシュ大統領は、2002~2007年のファスト・トラックの権限を獲得するために、2年という歳月と莫大な政治的技量を費やした。しかしその権限は、共和党が多数を占める下院においてすら1票の僅差で成立し、2007年には期限切れとなってしまった。

ビル・クリントン大統領は、2期目の任期中にファスト・トラック権限を得るために2年間を費やした。しかし、1998年、171名の民主党議員に、当時の議長ニュート・ギングリッチに強く反対していた71名の共和党議員が加わり下院で否決された。クリントン大統領は8年間の在任中6年間ファスト・トラック権限を有しなかったが、それでも中国のWTO加盟につながった最恵国待遇を与える協定を含む130以上の通商協定を締結した。

「今日では、どんな議案でも議会が党派を超えて合意に至ることは稀だ。したがって、大規模な超党派の議員連合が、憲法上議会が通商について有している排他的な権限の堅持を強く主張している現状は、注目に値する」とワラック氏は指摘した。

151人の民主党下院議員はオバマ大統領宛書簡(2013年11月)において、通商協定交渉とその承認のための新たな制度の創設を求め、「21世紀の協定において20世紀型ファスト・トラックは明らかに適切ではなく、取って替わられなければならない」と表明している。(翻訳協力:西本裕美/監修:廣内かおり)